「貧困を考えよう」(生田武志)

イス取りゲームの果てにある貧困

「貧困を考えよう」(生田武志)
 岩波ジュニア新書

以前にも書きました。
昨今、若者が就職できないのは、
本人の努力不足でも、
学校教育の問題でも、
会社と本人のミスマッチでもなく、
そもそも就職できる数が
少ないからなのではないか。
私は以前からそう思ってきました。

その実態を解説してくれる本が
見つかりました。
1ページ目からその現状を
「イス取りゲーム」になぞらえて
説明しています。
3つのイスの回りを
5人の人が回っている。
イスをとれるのは3人。
イスをとった人は
イスをとらなかった人より
努力をしたからだ。
しかし、参加者全員が今の100倍の
努力で回ったらどうなるのか。
そして全員が今の100万倍の
努力で回ったらどうなるのか。
結果はやはり座れない者が
2人でてしまうのです。
そしてその先にあるのは
「貧困」なのです。
本書はさまざまな角度から、
その「貧困」を取り上げています。

野宿者、つまりホームレス。
その人たちは決して働く気がなくて
そうなったのではなく、
日雇労働の賃金の異様な低さと
環境の劣悪さが原因となっていること。

母子家庭の貧困。
女性の働く能力の問題などではなく、
女性の正規雇用が低い、
そのため賃金が低い、
保育園等の子育て支援が少ないなど、
働けない状況、働いても
豊かになれない状況があること。

規制緩和等により終身雇用が崩れ、
企業が正社員を抑え、
非正規雇用を増加させたこと。
所得税や相続税の軽減等による
税制改革により、
所得の再配分が不十分になったこと。
「小さな政府」を目指したため、
社会保障が斬り捨てられていったこと。
福祉事務所が
生活保護申請者を追い返す
「水際作戦」が横行していること。
本書から拾い上げると
切りがありません。

今、学校では、キャリア教育として
職業体験をはじめとする
進路学習が盛んに行われています。
子どもたちは「なりたい職業」を
見つけることに
追い立てられているように感じます。

本当に子どもたちに
教えなければならないのは、
こうした「社会の現状」と、
「そうした社会の中でも
たくましく生きる能力」なのではないかと
思うのです。
どうすれば正規雇用を獲得できるか、
正規雇用につけなかった場合に
どう立ち回るか、
社会保障制度には
どのようなものがあるか、
次の機会をどのように待ち、
どのように
自分のキャリアアップを目指すか。
そうしたことこそ、
本来大人たちが子どもたちに
伝えなければならないことだと
思うのです。

文科省が推し進める
「キャリア教育の充実」。
私には政府の弱者切り捨て政策の、
恰好の目隠しになっている気がして
ならないのです。

進路を真剣に考えている
中学校3年生に読んで欲しい一冊です。

(2020.5.20)

ypさんによる写真ACからの写真

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